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十字王-後編5-



次にブレイドが目を覚ましたのは基地のメンテナンスベッドだった。
あの後、アームとバリスタの戦いがどうなったのか。
監視カメラなど役に立たなかったあの状況を知るものはアームとバリスタ、ただ二人のみ。

しかし自分がこうしてメンテナンスをされていること、
バリスタに「振るわれていた」ロンデルの刃が無残にへし折られていること
なによりその後にバリスタの姿がないことが、戦いの結果を知らせてくれた。

結果としてアームズテックにはバリスタのジャック能力の危険性と
アームの高い能力を裏付けるデータ。
そしてコーヒーの香りの中で死にかけたというブレイドのトラウマが残ることになったのである。

死にかけるかどうか、はともかく。
今ブレイドの前では取り合いの結果ぶちまけられたコーヒーのにおいが部屋中に充満する。
頭を抱えるように、手を額に当てるブレイドだが、一考した後、雑巾をかけるロンデルに声をかける。

「せっかくだ、俺は飲まねえが・・・差し入れてやるか。」

「あ、コラ!アタシのポット!!」
サーベルを組み伏せながらサイゼムが何か言っているが、お前のポットではない。
「あとでコーヒー飴でも奢ってやらぁ。」





「・・・よう、差し入れだぜ。」

施設内、地下。
ブレイドの見据える先には幾重にも重なる拘束具につながれたバリスタの姿があった。
アームとの戦闘で破損した箇所は修繕されているものの
メイン動力炉は取り外され、いうなれば仮死状態で封印されている。

「供え物を受け取ることもできねぇとは、こうなっちゃお前さんもおしまいだな。」

淹れなおしたコーヒーをカップに注ぎ、適当な突起の上に置く。


「お前さんの謀反は失敗だったわけだが・・・
 あの後一体、アームと何があったんだ?
 アイツも一切答えちゃくれねえ。」

しばらくにらみつけてみるが、当然バリスタは何も応えない。

その後しばらく、物思いにふけったブレイドは
かつて自分にトラウマを植え付けた王を一瞥し、部屋を出たのだった。






十字王・おわり
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十字王-後編- 4

バリスタが手を傾けるとロンデルの刀身が輝き、鏡のように周囲を映し出す。

「遅いな。」
言葉と同時に、目前に迫ったバリスタがブレイドに斬りかかる。
背面のブースターの調子は上々だ。

ガンッ!!

とっさに剣を動かし、それを受け止めるブレイド。
その衝撃はお互いの刀身に入ったヒビでよくわかる。
・・・しかしバリスタの次の攻撃には反応できなかった。

ビリッ・・・という感覚がブレイドの体を駆け抜ける。
顔の目前に迫ったバリスタの右腕。
本来は周辺を自動で洗脳する能力であるジャックだが
アームと同じく手をかざして直接アクセスすることで、より強力なものになる。
『意識して避ける』という手段もふさがれてしまうのだ。
「これで終わりだ。あっけないものだな。」



「・・・マズいですね・・・。」
それを見て思わずアームがもらす。心なしか表情にも余裕がないようだ。
わざわざ対策までして避けた、最悪の相手。
それが今、現れてしまった。

「さあ行け、我が騎士よ。古き時代を終わらせるのだ。」

一拍の間の後、おぼつかない様子でブレイドが剣を構え、
アームにふらふらと切っ先を向け、振り上げる。





ザンッ・・・






「ぐっ・・・ぐぁあああああっ!!!」

ブレイドの斬撃により、右腕が宙を舞い、叫び声がこだまする。





しかし、叫んだのはアームではなく、バリスタである。

「チッ、すんでに避けやがったか。
 まあこれで、フィンクの分おあいこと行こうぜ。」
先ほどとは違ってしっかりと剣を握り、血振りのように剣を払うブレイド。
口元には普段のニヒルな笑みが戻っていた。

「貴様っ・・・!なぜだ・・・ジャックされたはずでは・・・っ!」
今まで見せたことのない焦燥の表情でバリスタが睨む。

「ジャックが効かないのが不思議か?なぁに。簡単な話さ・・・」

ブレイドはバリスタをあざ笑うかのように親指で自らの顔を指した。
「俺の顔に張り付いてるコレはただのお面じゃねえのさ。
 直接的な電波干渉や強制アクセスを防ぐ・・・いわば”こんなこともあろうかと”ってヤツさ。
 ・・・王様よぉ。」
首を傾けて相手を見下すような格好をとるブレイド。
その側でアームが呆れた表情を作る。

一方のバリスタはわなわなとふるえている。
「なるほど、迂闊であった。
 余が謀反を起こしたときの備えはあって当然であろうなぁ・・・!」
怒り、焦燥、その表情はやがて凶悪なほどの笑みへと変わった。


ザンッ

「しかし片手がなくともさほど違いはない。
 油断大敵というやつだ。騎士よ。」
一瞬の気のゆるみが反撃をゆるし、ブレイドの胸部装甲が切り裂かれる。
斬られたのは装甲だけではあったものの、思わず片膝をつくブレイド。

「さすが現役だけあって頑丈だな、しかしこれで今度こそ・・・」

ズドン!
突如飛んできた弾丸に、バリスタの側頭部のアンテナが撃ち落される。
「いつまで遊んでいるんです?アナタ。」
振り返るバリスタの顔に迫る爪。とっさにかわして剣を振る。
・・・が、アームは肘とヒザが刀身を挟んで押さえつける。

もうろうとする意識の中、ブレイドはその光景を見ていた。
(まあ・・・ハッタリにしちゃ上出来だったか・・・)
実は先ほどの電波干渉の遮断は真っ赤な嘘。
いうなれば意地と根気で無理やり体を動かしている状態なのだ。
(俺は先にリタイヤさせてもらうぜ、旦那・・・)
震える親指に力を込めて、喉元にある緊急停止スイッチに突き立てる。
(敵に・・・まわるよ・・・り・・・は・・・・・・・・)
メイン動力炉がストップし、ブレイドの意識がシャットダウンされる。

十字王-後編- 3



会議室の長机に腰を掛け、二体のテックボットをはべらせたバリスタは
言葉通り王様を気取ってこう告げた。

「案外早かったな、流石は現リーダーというべきか。・・・だが。」

頭部に刃をとりつけた同型色違いの二体のテックボット、サーベルとロンデルが武器を構える。

「貴様がその椅子に座っているのも今日までだ。」

怪訝な顔をする二人を見て、バリスタは再びニヤリ、と笑う。 

「・・・なに、案ずるな。命はまで取りはせぬ。
 いずれは余のため人のため・・・身を粉にして働いてもらうのだからな。」

アームがサーベル、ブレイドがロンデルに掛かり、両者はそれをいなす。
自我を失っているとはいえ・・・否、自我を失っているからこそ
本来の兵器としての性質は十分に発揮されており
サーベルの長刀さばきとロンデルの短刀二刀流が二人を追い詰めていく。

「自らの手を汚さずに敵を倒す・・・か。
 むやみに手を出せねぇと知ってコイツらを盾にするたぁ・・・
 大した帝王学だねェ、王様よぉ・・・!」
 
軽口をたたくブレイドに、腕に内蔵されたツメで長刀を抑えながらアームが指示を出す。

「ずいぶんな余裕じゃないですか。・・・致し方ありませんね。武装をはぎとるまでなら許しましょう。」

といいつつ爪をひねり、サーベルの長刀を弾き飛ばし
頭部の刃での頭突きをかわすと、額に手のひらをたたきつける。
メイルたちと同じやり方で、サーベルを停止させたのだ。

もう一方のブレイドも、武器を握る手への打撃により短刀を叩き落とし
バランスを崩したロンデルの頭部の刃を片手で地面に押さえつけた。

「・・・ふむ。想像以上、さすがに強いな。」
白々しく驚いて見せ、いまだ余裕を余らせるバリスタにブレイドが剣を突きつける。
「残るはお前だけだぜ?王様よ。
 丸腰のとこ悪いが・・・さっさと片付けさせてもらう。」

「丸腰?・・・ふふ。それは違うな。
 今しがたちょうど良い武器を拾ったばかりなのだよ。」

バリスタの瞳に映る十字のラインがより強く光ったと同時に、ロンデルが獣のような叫びをあげる。
そしてブレイドの身体を跳ね飛ばし、バリスタのそばに跳ねる。

・・・と同時にロンデルのボディが上下に分離し、巨大な剣のような形になった上半身をバリスタが握る。
そして、長机から降りる彼の背中にブースターとなった下半身が取りついた。




サーベルとロンデルに搭載された友軍機支援システム。
自らを武器とバックパックに変形して味方を支援、強化するシステムだが
最悪に近い形で機能する形になってしまったわけだ。

アームの顔から珍しく焦りが見える。

「”こんなこともあろうかと”だ。わが前任者よ。
 自ら手を下す事も見越して武器を用意しておいたのだよ。」

それを見たバリスタは自慢げな顔で告げた。

「さあ、遠慮はいらぬ。
 そして光栄に思うがいい。
 王と斬り結べることを・・・な。」

十字王 -後編- 2


「なあ、旦那よ。あんたがバリスタをジャックしちまえば話は早いんじゃねえのか?」
その言葉を聞いて、アームが顔をしかめる。
「わかって言っているのですか?
 彼や私にはある程度電波干渉を防ぐ能力が備わっています。
 せいぜい体の動きを鈍らせる程度しか期待できないでしょう。」
まあ、当然のことながら指揮官タイプとして開発された以上、他のテックボットには
ないような機能を持っているのも、不自然な話ではない。
要するに、つくりの基礎が違うのだ。


フィンクを横目に通路を進むとオフィスエリアにたどり着く。
廊下に並んだ扉のひとつ。唯一ノブが傾いた扉を
勢いよくはじき開けると、ある『ニオイ』が襲ってくる。

オフィスに充満したこの苦く渋い薫り・・・コーヒーの匂いだ。
見ると室内に設置されたコーヒーメーカーが、カップから溢れて床を濡らすほど
中身のコーヒーをはきだしつづけている。

「あきらかに・・・バリスタの仕業、ですね。
 てあたり次第に機械を暴走させているようですが、陽動のつもりでしょうか?」

ガコンッ!ボン!

背後の扉が閉じ、軽い爆発音が響く。
アームが苦々しげに、煙を上げた扉横のカードリーダーをにらみつけた。

「シャレたマネしてくれるじゃねえか。俺たちを閉じ込めたつもりかい?」

閉じた扉は防災のため厚くできており、簡単に蹴り破れるほどヤワではない。

が。

「改装工事だと思えばいいだろ?
 ちゃっちゃと叩き斬ってズラかるか。」

ブレイドが背中の剣に手を伸ばすとアームがそれを静止する。
「どうせ壊すならこっちでしょう」
そう言うと、アームの胸部装甲が開き、備えられたエネルギー砲が露出する。
おいおい、本気か・・・と顔をひきつらせるブレイドをよそに、
アームの胸に熱が集まり、光球となって発射された。

衝撃波のような熱風が周囲に放射され、ズガンッ!!という轟音と共に、扉とは別方向、
ホワイトボードのかかった壁が破壊される。
「どのみち、新しいものに取り換える予定ですし。」

なんとか壁としての体裁を保っている壁面に前蹴りを入れて、壁に大穴を開けるアーム。
顔には出さないが、内心そうとう頭にきているらしい。仕草からそれが見て取れた。
「あなたの皮肉グセがうつったようですね。そう思いませんか?
バリスタ。」

土埃のまう壁の向こう側。
足を組み、隣室の長机に腰をかけ、不敵な笑みを浮かべる
バリスタに向かって、アームはつぶやいた。

十字王 -後編- 1

新型のテックボット「バリスタ」の起動テストに
突如おこった「想定外の事態」・・・

試験室外の警備役テックボットがバリスタの能力「ジャック」により
操られ・・・その惨状がこれである。

まさに”惨状”の言葉がふさわしい光景だ。
見た感じ死者はいないのが不思議とも思える。
崩壊したデスクに巻き散らかされたファイル、書類の数々。
研究員の人数があわないように見えるが、文字通り「いなくなってしまった」のか
それとも逃げることができたのか・・・

考えている暇もなく、アームが部屋を飛び出す。

もし、この「アームズテック」という組織がフィクションに出てくる悪の組織なら
どんなに楽なのだろうか・・・

ごく事務的にいえば「試験中に暴走した危険な兵器」であるバリスタを
このまま所内に放置したら?仮に市街に出てしまったら?
世界征服や人類抹殺を望むような悪の組織ならともかく
一介の企業であるアームズテックにとっては早急に対処すべき事態なのだ。

「で?あちらさんの戦力はどんなもんだと思うよ?」
「警備として連れてきたうちの残り3体もバリスタにジャックされているとみて間違いないでしょう。」
今回の任務に参加したテックボットは現在バリスタを探して駆け回るアームとブレイド。
さきほど機能停止状態となったメイルとハルベルト。そして残り3体のうち1体は・・・

「なるほどな。コイツは無事だったわけか・・・ついさっきまでなら。」

通路に出てすぐの壁際にもたれかかる、猫のような顔をした
半人型のテックボット・・・フィンク。
抜け目ないヤツである。おそらくは彼もジャックを逃れ、バリスタに鉢合わせたのだろう。

もぎ取られた右腕が痛々しく、元から「表情」というものを持ち合わせていない
彼の顔でなければ、苦痛にゆがんだ表情のまま固定されていたことだろう。
プロフィール

山

Author:山
オリ人外キャラ好きのCURURU難民です。
創作系の漫画や小説やってます。
本拠地はここ

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